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婚姻費用減額の申立てにつき、前件審判を変更すべき事情変更が認められなかった例

抑うつ状態のために退職し減収となったことを理由とする婚姻費用減額の申立てにつき、前件審判時と同程度の稼働能力を有すると認められ前件審判を変更すべき事情変更が認められないとして、申立てを却下した決定

【裁判所】大阪高等裁判所決定
【年月日】2020年(令和2年)2月20日
【出典】家庭の法と裁判31号64頁
【事案の概要】
2016年12月、抗告人が相手方に婚姻費用を支払うよう命じる審判がされ、同審判が確定した。
2018年5月以降、抗告人は婚姻費用を一切支払わなくなり、同年10月、13年間勤務していた会社を自主退職した。
同年10月末、抗告人は、婚姻費用減額調停を申立てたが、不成立となり審判に移行した。
原審は、婚姻費用を減額すべき事情変更があったと判断し、婚姻費用分担金の減額を認めたが、抗告人は即時抗告をした。
【決定の概要】
抗告人は、本件調停申立て後、平成30年(2018年)11月に受診した以後は約5か月間受診しなかったが、本件審判手続に移行した約半月後の同年4月に診察を受け、気分変調症(慢性の抑うつ状態)であり、うつ状態の持続から一般就労は困難な状態である旨記載された診断書の交付を受けた。しかし、上記診断書には、具体的症状は全く記載されておらず、どの程度就労が制限され、どのような形態であれば就労可能であるのか明らかではない。「このような上記診断書の作成時期、経緯及び記載内容からすれば、抗告人は、本件審判手続において自己に有利な資料として提出するために上記診断書の交付を受けた疑いなしとしない。」
「抗告人は、自己の将来に役立てるために免許等の取得や大学入学を目指して意欲的に取り組み、実現しているのであるから、就労困難であるほどの抑うつ状態であるというのは不自然であり、信用することはできない。抗告人が就労困難でないことは、抗告人が令和元年8月以降は受診も服薬もしていない上、同年9月11日の原審第4回審判期日において、相手方との審判等がなければ、身体、精神上特段の問題はない旨陳述しているところからもうかがえる」。
「以上のとおり、抗告人は、前件審判後、断続的にD医師の診断を受け、Hを退職してほとんど収入がない状態となっているが、自らの意思で退職した上、退職直前の給与収入は前件審判当時と大差はなかったし、退職後の行動をみても、抑うつ状態のため就労困難であるとは認められないから、抗告人の稼働能力が前件審判当時と比べて大幅に低下していると認めることはできず、抗告人は、退職後現在に至るまで前件審判当時と同程度の収入を得る稼働能力を有しているとみるべきである。したがって、抗告人の精神状態や退職による収入の減少は、前件審判で定められた婚姻費用分担金を減額すべき事情の変更ということはできず、抗告人の本件申立ては理由がない。」
(取消、却下(上訴あり))

説明

■婚姻費用分担額が決まった後の増額・減額の申立て

夫婦間の合意や家庭裁判所の調停や審判によって婚姻費用分担額が決まった後でも、その後の当事者の経済状況の変化などの「事情変更」が生じたときには、婚姻費用分担額を変更することができます(民法880条、家事事件手続法154条1項)。

■婚姻費用分担額を変更することができる「事情の変更」

本件では、抗告人が、抑うつ状態のために退職し減収となったことを理由として、婚姻費用減額を申し立てたのに対し、原審は、事情の変更を認めて減額を認めましたが、本決定は、事情変更を認めませんでした。
収入の認定方法について詳しく判断されており、婚姻費用や養育費の事案で参考になると思われます。
また、本決定は、事情変更の一般的な判断基準には特に触れていませんが、これについて述べた裁判例として、以下の裁判例も参考になります。

【名古屋高等裁判所 2016年(平成28年)2月19日決定】
婚姻費用の分担額の減額は,婚姻費用分担の程度若しくは方法について協議又は審判があった後,事情に変更を生じたときに認められるものであるところ(民法880条参照),上記「事情の変更」とは,協議又は審判の際に考慮され,あるいはその前提とされた事情に変更が生じた場合をいい,協議又は審判の際に既に存在し,判明していた事情や,当事者が当然に予想し得た事情が現実化したにとどまる場合を含むものではない。

【東京高等裁判所 2014年(平成26年)11月26日決定】
仮に何らかの事情の変更があったとしても,事情の変更がある度に逐一,婚姻費用分担金の額を変更しなければならないとすることは,確定した一定額の婚姻費用分担金の支払を前提とする当事者双方の安定した生活を一方的に不安定なものとする結果となり,妥当なものではないから,安易に事情の変更による婚姻費用分担金の減額を認めることはできない。したがって,審判確定後の事情の変更による婚姻費用分担金の減額は,その審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により,その審判の内容をそのまま維持させることが一方の当事者に著しく酷であって,客観的に当事者間の衡平を害する結果になると認められるような例外的な場合に限って許されるというべきである。

【大阪高等裁判所 2010年(平成22年)3月3日決定】
調停において合意した婚姻費用の分担額について,その変更を求めるには,それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると,合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など,分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。

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