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審判申立後に離婚した場合の婚姻費用分担請求権の帰すう

婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権は消滅しないとした決定

【裁判所】最高裁第一小法廷決定
【年月日】2020年(令和2年)1月23日
【出典】家庭の法と裁判27号36頁
【事案の概要】
抗告人は、2018年5月、相手方に対し、婚姻費用分担調停を申し立てた。
抗告人と相手方との間で、2018年7月、離婚調停が成立したが、同調停では、財産分与に関する合意はされず、清算条項も定められなかった。
同日、上記婚姻費用分担調停事件は不成立により終了し、審判に移行した。
原審は、抗告人の相手方に対する婚姻費用分担請求権は消滅したから、離婚時までの婚姻費用分担を求める抗告人の本件申立ては不適法として却下したため、抗告人が許可抗告を申し立てた。
【決定の概要】
民法760条に基づく婚姻費用分担請求権は、夫婦の協議のほか、家事事件手続法別表第2の2の項所定の婚姻費用の分担に関する処分についての家庭裁判所の審判により、その具体的な分担額が形成決定されるものである。また、同条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と規定しており、婚姻費用の分担は、当事者が婚姻関係にあることを前提とするものであるから、婚姻費用分担審判の申立て後に離婚により婚姻関係が終了した場合には、離婚時以後の分の費用につきその分担を同条により求める余地がないことは明らかである。
しかし、上記の場合に、婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず、家庭裁判所は、過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできると解するのが相当である。このことは、当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても、異なるものではない。
したがって、婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえない。
(原審に破棄差し戻し)

説明

■婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚した場合でも、婚姻費用分担請求権は消滅しない


婚姻費用分担申立ての調停や審判の係属中(手続中)に離婚が成立した場合に、離婚成立時までの過去の婚姻費用分担請求権が当然に消滅するか否かについて、下級審裁判例の判断が分かれていたところ、本決定は、最高裁として初めて判断を示したものです。
原決定は消滅すると判断しましたが、本決定は、この考え方を否定し、婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚した場合について、婚姻費用分担請求権は消滅しないと判断しました。

■財産分与と婚姻費用分担請求権との関係

本決定は、財産分与についての合意が未了であり、今後財産分与の請求をする可能性が残っている場合であっても、係属中の婚姻費用分担審判の申立てにおいて過去の婚姻費用の分担額の形成決定をすることができる旨も示しています。
財産分与と婚姻費用分担請求権との関係については、以下の判決により、過去の婚姻費用の清算は財産分与の中で行うことができるとされています。他方、以下の判決は清算の方法について財産分与に限る趣旨ではなく、婚姻費用分担請求も可能と考えられており、本決定は、これと同様の理解をしているものと考えられます。

【裁判所】最高裁第3小法廷判決
【年月日】1978年(昭和53年)11月14日
【出典】判例タイムズ375号77頁
【判決の概要】
離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは民法771条、768条3項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は事情のひとつにほかならないから、裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが相当である。

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