家事事件手続法154条2項4号に基づく建物明渡し
【裁判所】最高裁第一小法廷決定
【年月日】2020年(令和2年)8月6日
【出典】最高裁ホームページ
【事実の概要】
抗告人が相手方に財産分与の審判を申し立てたケースで、抗告人名義の建物を相手方が占有しており、抗告人は建物の明け渡しを求めていた。
原審は、抗告人名義の建物を相手方に分与しないものと判断した上で、抗告人に対し209万9341円の支払いを命じたが、建物の明渡し請求については、所有権に基づくものとして民事訴訟の手続において審理判断されるべきものであり、家庭裁判所は、家事審判手続きにおいて不動産の明渡しを命ずることはできないとした。
【決定の概要】
財産分与の審判において、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることとされている(民法768条3項)。もっとも、財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると、当事者は、財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付を求める訴えを提起する等の手続をとらなければならないこととなる。
そこで、家事事件手続法154条2項4号は、このような迂遠な手続を避け、財産分与の審判を実効的なものとする趣旨から、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者に対し、上記権利関係を実現するために必要な給付を命ずることができることとしたものと解される。そして、同号は、財産分与の審判の内容と当該審判において命ずることができる給付との関係について特段の限定をしていないところ、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の財産につき、他方当事者に分与する場合はもとより、分与しないものと判断した場合であっても、その判断に沿った権利関係を実現するため、必要な給付を命ずることができると解することが上記の趣旨にかなうというべきである。
そうすると、家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者双方がその協力によって得た一方当事者の所有名義の不動産であって他方当事者が占有するものにつき、当該他方当事者に分与しないものと判断した場合、その判断に沿った権利関係を実現するため必要と認めるときは、家事事件手続法154条2項4号に基づき、当該他方当事者に対し、当該一方当事者にこれを明け渡すよう命ずることができると解するのが相当である。
(原審を破棄し差し戻し)
説明
平成25年に施行された家事事件手続法の154条2項4号は、以下のように定めています。
154条2項
家庭裁判所は、次に掲げる審判において、当事者に対し、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
4号 財産の分与に関する処分の審判
この規定により、夫婦の一方の所有名義の不動産を他方に財産分与する場合は、所有権移転登記手続とともに、分与を受けた当事者が完全な所有権を取得するための手段として、退去や明渡しを命ずることが許されています。
ところが、本件の建物のように財産分与しないと判断された不動産の明渡しについては、家事事件手続法制定前の家事審判法時代、原審の判断のように、明渡し請求の別の裁判が必要と理解する見解もあり、実務上の解釈が分かれていました。
本件決定によって、財産分与の対象外となった不動産についても、財産分与審判による明渡しが可能として決着しました。