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不貞相手である第三者に対する離婚慰謝料の請求

夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないとした判決

【裁判所】最高裁判所第3小法廷判決
【年月日】2019年(平成31年)2月19日
【出典】判例タイムズ1461号28頁
【事案の概要】
被上告人とAは、1994年に婚姻し、2人の子をもうけた。被上告人は、婚姻後、Aらと同居していたが、仕事のため帰宅しないことが多く、Aが上告人(第三者)の勤務先会社に入社した2008年以降は、Aと性交渉がない状態になっていた。
上告人は、同年12月頃、上記勤務先会社において、Aと知り合い、2009年6月以降、Aと不貞行為に及ぶようになった。被上告人は、2010年、上告人とAとの不貞関係を知った。Aは、その頃、上告人との不貞関係を解消し、被上告人との同居を続けた。
Aは、2014年に被上告人と別居し、その後半年間、被上告人のもとに帰ることも、被上告人に連絡を取ることもなかった。
被上告人は、2014年11月、Aを相手方として夫婦関係調整の調停を申し立て、2015年にAとの間で離婚調停が成立した。
原審は、上告人とAとの不貞行為により被上告人とAとの婚姻関係が破綻して離婚するに至ったものであるから、上告人は、両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うとして、慰謝料180万円を認めたのに対し、上告人が上告した。
【判決の概要】
夫婦の一方は、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ、本件は、夫婦間ではなく、夫婦の一方が、他方と不貞関係にあった第三者に対して、離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
本件では、上告人は、被上告人の妻であったAと不貞行為に及んだものであるが、これが発覚した頃にAとの不貞関係は解消されており、離婚成立までの間に上記特段の事情があったことはうかがわれない。したがって、被上告人は、上告人に対し、離婚に伴う慰謝料を請求することができない。

 

説明

■夫婦の一方は他方と不貞行為に及んだ第三者に対し、原則として離婚慰謝料を請求することができない

本判決は、夫婦の一方が他方(不貞をした配偶者)と不貞行為に及んだ第三者に対し、離婚慰謝料を請求することを原則として否定しました。
本判決の背景には、離婚をするかどうかは、当事者である夫婦の自由意思によって決定されるものであって、不貞相手である第三者が、《夫婦が婚姻生活を維持するか、離婚するかの決定権》を侵害することはできないという考え方があります。
後述のとおり、「離婚慰謝料(離婚による慰謝料)の請求権」と、「不貞慰謝料(不貞による慰謝料)の請求権」は別のものであり、本判決は、このうち「離婚慰謝料」の請求についての判決です。

また、前提として、離婚慰謝料は、有責配偶者に対しては請求できます。本判決は、離婚についての第三者の責任を限定したものです。

■不貞相手である第三者に離婚慰謝料を請求できる「特段の事情」

本判決は、「当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるとき」に、不貞相手である第三者に対する離婚慰謝料を請求する余地があるとしています。
これは、単なる不貞行為では足りず、たとえば、「不貞関係をもった配偶者を騙し、脅迫するなどして離婚に追い込んだ」等の事情が必要と考えられています。

■不貞相手である第三者に対する「不貞慰謝料」の請求

本判決は、不貞相手である第三者に対する「離婚慰謝料」について判断を示したもので、「不貞慰謝料」の請求を認めているこれまでの判例の考え方を変更するものではありません。
なお、不貞行為を理由とする第三者に対する「不貞慰謝料」の請求権の時効は、不貞行為によって精神的苦痛を被ったと主張する配偶者が不貞行為の事実を知った時から3年です。

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