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婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)の例

別居期間3年余りの夫婦について、別居に至る経緯、別居期間、別居後復縁に向けた具体的な動きがないことから、婚姻関係は修復不能なまでに破綻(はたん)していると判断して、離婚請求を認容した事例

【裁判所】東京高等裁判所判決
【年月日】2017年(平成29年)6月28日
【出典】家庭の法と裁判14号70頁
【事案の概要】
控訴人は、2006年に被控訴人と婚姻し、流産したが、その際の罪悪感や悲しみを被控訴人とは共有できず、孤独感をもった。
その後、長女を出産し、妊娠中はつわりがひどく苦しんだが、被控訴人には控訴人の苦しみが伝わらなかった。
被控訴人は仕事が多忙で長女の育児にはおむつ換え程度しか関与できなかったが、控訴人が育児の辛さを訴えると、被控訴人は「お前は子供の面倒を見ているだけだろ。家のことだけだろ。」と言って育児の辛さに対する理解を示さず、控訴人は疎外感を持った。
長男を出産した後には、家計をめぐって口論になった際に、被控訴人は控訴人に対して「お前に稼げるのか。稼いでもいないくせに。どうせできないだろう。」等と述べた。
控訴人は、自分で安定的に収入を得たいと考えて、2012年、看護学校に入学し、控訴人が被控訴人に一時的に家事の負担を求めても、被控訴人は、結婚する際に家事は一切しないと言ってある等と述べて家事の分担を拒否した。
控訴人は、2014年、夫婦での口論の後、「私がいけないんだよね。」と子どもが自らを責める発言をするのを聞いて、被控訴人との婚姻関係がうまく行かないことによる悪影響が子らに対してまで及んでいると感じ、被控訴人との離婚を決意し、子らを連れて自宅を出て、被控訴人と別居した。
別居後、離婚調停を申し立てたが不成立にて終了。
控訴人は、最初の子を流産した際の被控訴人の冷淡な対応、長女の妊娠の際における被控訴人の無配慮な言動、身勝手な主張や育児に対する非協力等によって被控訴人との婚姻関係が破綻したとして、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)があると主張して、被控訴人に対し、離婚を請求した。
原審は、控訴人主張の事実は一般に子を持つ夫婦間で日常的に生じ得る不満であり、被控訴人の言動は、通常、婚姻関係を破綻させるような有責の行為であるとは認め難いとして離婚請求を棄却したのに対し、控訴人が控訴した。
【判決の概要】
控訴人は,被控訴人が9歳年上で職場の先輩でもあったことから,被控訴人を頼りがいのある夫と認識して婚姻し,一方,被控訴人も,控訴人を対等なパートナーというよりも,庇護すべき相手と認識しつつも,家事は妻が分担すべきものとの考えで控訴人と婚姻したところ,控訴人は,流産,長女及び長男の出生,2度目の流産を経験するなかで,被控訴人が家事や育児の辛さに対して共感を示さず,これを分担しないことなどに失望を深め,夫から自立したいという思いを強くしていったこと,これに対し,被控訴人は,控訴人の心情に思いが至らず,夫が収入を稼ぐ一方で,妻が家事育児を担うという婚姻当初の役割分担を変更する必要を認めることができずに,控訴人と被控訴人の気持ちは大きくすれ違うようになっていたこと,そうした中,控訴人が看護学校に行っていて不在の際に,被控訴人が未成年者らを厳しく叱るということなどが続き,控訴人はこのまま被控訴人との婚姻関係を継続しても,自らはもとより未成年者らにとっても良くないと離婚を決意するに至り,平成26年1月になって,未成年者らを連れて別居したという経緯が認められ,かかる経緯に加え,別居期間が3年5か月以上に及んでおり,しかも,この間,復縁に向けた具体的な動きが窺えないという事情をも加味すれば,控訴人・被控訴人のいずれかに一方的に非があるというわけではないが,控訴人と被控訴人の婚姻関係は既に復縁が不可能なまでに破綻しているといわざるを得ない。
被控訴人は,事柄の背景を考えれば夫婦喧嘩にすぎないもので,離婚原因は存在しないと主張するが,前記のとおり,夫婦の役割等に関する見解の相違を克服できないまま,控訴人は離婚意思を強固にしており,その意思に翻意の可能性を見いだしがたい上に,既に述べたとおり,別居後は,双方に,今日に至るまで,復縁に向けての具体的な動きを見い出すことができないのであるから,かかる事情に照らせば,既に夫婦喧嘩という範疇に留まるものではなく,離婚原因を形成するものといえ,被控訴人の主張は採用することができない。

説明

■婚姻を継続し難い重大な事由ー法律で定められた離婚原因(民法770条1項)

裁判離婚のうち判決離婚は、法律で定められた離婚原因がある場合にのみ認められます。
この離婚原因のうち「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)とは、一般に、婚姻関係が深刻に破綻(はたん)し、婚姻の本質に応じた共同生活の回復の見込みがない場合とされています(以下では「婚姻破綻」といいます)。
その判断にあたっては、婚姻中の両当事者の行為や態度、婚姻継続意思の有無、子の有無・状態など、婚姻関係にあらわれた一切の事情が考慮されますので、具体的な裁判例が参考になります。

■相手方が有責でなくても認められる

配偶者に対する暴行・虐待・侮辱など、相手方に有責行為があり、その程度がひどいほど婚姻破綻は認められやすいですが、本号による離婚は、相手方が有責でなくても認められます。
本判決も、「いずれかに一方的に非があるというわけではないが」としながら、婚姻破綻を認めています。
ただ、相手方に有責性がない場合は裁判所は慎重な態度を取る傾向にあり、原審も、この点を重視して婚姻破綻を認めなかったのかもしれません。

本判決は、相手方の有責性を認めているわけではありませんが、婚姻期間のうち「別居期間が3年5か月以上に及んで」いること、「夫婦の役割等に関する見解の相違を克服できないまま,控訴人は離婚意思を強固にしており,その意思に翻意の可能性を見いだしがたい」こと、「別居後は,双方に,今日に至るまで,復縁に向けての具体的な動きを見い出すことができない」ことなどを挙げて、総合的にみて、夫婦としての共同生活の回復の見込みがないと判断したものといえます。



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